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彼が焦れたように僕の答えを待っている。
僕は頭を満たす桜の香りにつられてこう答えた。
「桜で!」
ガサガサとマシュマロの袋の中を探る音がする。
一秒、二秒、三秒……と時を数えながら僕は唇に神経を集中させた。
いつくるのかと思った時、ふにゅっとした感触が唇に起こる。
それはサラサラとして柔らかくて、桜の甘い香りを強く纏っていた。
僕は思い切って口を開け、その塊をパクリと食べてしまう。
甘い。
ただし、勢いよく口を開けすぎて、しょっぱい彼の指も一緒に唇で食んでしまった。
「あ! ジュン、何食ってんだよ!」
僕は目を開けて、僕に指を食べられたまま笑っている彼を見る。
良かった。と思った。目の前にいるのはいつもの彼だ。
僕はよくわからないけれど、胸のあたりがジンと温かくなる。
「このマシュマロ、うまいな」
そういって笑うと、彼は肩をすくめた。
「キスの練習にはならなかったけどな」
「いいよ。本番までとっとく」
好きな人に好きだと言えるようになるまで、キスはとっておくつもりだ。
僕たちは目が合うと、どちらからともなく笑いあった。
この、なんともないような日々が、愛おしい。
僕はこの日常を壊したくない。
彼とのこの関係を壊したくない。
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