兆し

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 疑問を作ったのと同時、周囲のざわめきが形になった。 『一宮のヤツ、白紙回答だったってよ』 『マジか?』 『知ってる? 一宮くん、おかしくなっちゃったんだって』 『え~? あの噂、本当だったんだあ』 『昨日、これを貼り出した直後に行き合わせたんだけど、あいつ、この前でいきなり笑い出したんだ。これで俺の後ろには誰もいなくなった……だったかな、訳のわからないこと叫んでてさ。すげー怖かった』 『勉強のやり過ぎも危ねえよなあ』 『この前のテストからおかしかったみたいだよ。同じクラスのカグラくんを階段から突き落としたり』 『え? そんなことあったの?』 『ちょうど部活の時間で、柔道部が階段で筋トレしてた時で。ほら、カグラくんて小さくて細いじゃない? 柔道部員が受け止めたらしくて』 『で、怪我がなかったんだ』 『うん。それに事件にならなかったのも、一宮くんが逃げていくところを何人も見てるのに、カグラくんが、自分の不注意で落ちた、って言い張ったからなんだって』  カグラ? 「おい。もう行くぞ」  立原に肩を叩かれ、我に返った。周囲の声は雑音に戻る。
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