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「太郎くん!」
歩いて30分、駅前広場を抜けてすぐ。大型ショッピングモールの1階、正面玄関側にあるホールに現れた彼を呼び止める。ビックリした表情でこちらをみる彼。隣には不思議そうに首を傾げ、彼と私を交互にみる女の子。
「もしかして、噂の彼女さん?」
女の子に微笑んでから、彼…太郎くんに視線を投げれば、明後日の方向を向きながら、「あ、うん…」なんて弱々しい返事をされた。
「あ、あの。たろくんの、お友達とかですか?」
たろくん。ああ、この子はそうやって呼んでいるの。親しいのね、腕まで組んでるものね。
「さあ、どうなのかしら。一応、彼女のつもりだったんだけれど。」
怪訝そうな女の子と、真っ青な太郎くん。
恋人だと思ってたの。今でも思っているのよ、太郎くん。なのに、なんで目を合わせてくれないのよ。
「……ごめん。」
素っ気ない謝罪が彼の答え。ストンと胸に落ちて、滲みながら消えてゆく。
彼の隣、正真正銘の彼女さんは、彼の腕にしがみついたまま、小さく震えているように見えた。
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