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坂道が続く狭い道路を行くバス。プロの運転だから大丈夫だとは思うが、建物のギリギリを走るそれは、あまりにも心臓に悪い。
群馬県草津温泉へは何度目かの旅行。だから恵実は慣れていた。
だが隣の窓際に座る女性は初めてらしく、自分のバッグを握り締めたまま外を見つめていた。
ちょうど自分と同じ三十代前半くらいだろうか、と恵実は思う。
思い出す過去の自分。
初めての社員旅行。春だった。
恵実も彼女のように冷や汗をかきながら外を見つめていた。
『大丈夫だよ』
そう言って手を握ってくれた彼は、まだ恋人ではなくて同僚の一人。
暖かい手は少しゴツゴツしていて、緊張からか強く握り過ぎる不器用な人。優しさは伝わるのだが頼りなさも感じていた。
お互いに若くて、会社でもまだ新人。恵実は彼に好意を持っていたが恋愛感情ではない。
しかし自然に握られた手の熱は、恋心を思わせて胸が苦しくなった。
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