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急カーブに体が揺れて、我に返る恵実。隣にいた女性の膝からバッグが滑り落ちた。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
バッグを手渡すと、女性は柔らかく微笑んだ。
「バスを降りたら、湯畑から少し離れた場所に可愛いカフェがあるんです。落ち着きますよ?」
彼女は嬉しそうに頷いた。
坂道の急カーブを越えると、ようやく見えてきた湯畑。そこにあるバスターミナルにたどり着いたのは午後四時。夕方だった。
隣に座っていた女性と別れ、恵実はバスを降りる。すると吐き出した息が白く、途端に寒さが身にしみるようだった。
「行ってらっしゃい」
声をかけてくれたバスの運転手は、五十代くらいの男性。柔らかい笑顔に恵実の気持ちも明るくなった。
旅館が出してくれているこのバスは、乗客を湯畑近くまで運んでくれる。
もちろん、そのまま旅館に行くことも出来るが、恵実はここで降りることを選択した。
大きな荷物は旅館まで運んでくれるし、一度旅館に行くと時間がもったいない気がしたからだ。
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