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僕を遠くへ連れていってくれるのは、いつだって本だけだった。
もう何度目の冬だろう。雪が降って、融けて、春になるまでに、何度この寒い夜を越えるのだろう。
「はぁ…」
温かく気温の保たれた室内では、吐く息も白くならない。夏も冬も、季節なんて関係なくこの部屋の温度は一定で、寒くもなく暑くもない。外ではまたはらはらと雪が降り始め、昨日降ったまま融け残っている雪の上に積もっていく。庭の木は葉を落として、その枝を白く染めていった。
外に出たら、どんな感じなんだろう。想像してみる。白い息を吐き、頬を赤く染める。雪はツメタくて、手がカジカム。空気がしんとヒエテいて、アタタカイ室内が恋しくなる。
知らない感覚を想像しては、経験できない歯痒さを噛み殺す毎日を、僕はあとどれほど過ごすのだろう。
「……また来たの?」
「〝また来たの〟とは失敬な! 君が寂しがっていると思って、わざわざ来てやっているというのに」
ノックもなく、音も立てずに気づけばベッドの脇の椅子に腰かけていたそいつは、いつものように大袈裟な身振りで嘆いてみせた。
「…頼んでないよ」
「まぁまぁ、そう言わずに」
呆れながら呟けば、にっこりと笑みを浮かべて、すっとどこから取り出したのか、茶色い表紙の分厚い本を自分の顔の横に掲げて見せる。本の表紙には、見たこともない〝文字のようなもの〟が書かれているが、僕にはなんと書いてあるのか読むことはできなかった。
「今日も持ってきたよ」
はぁ。僕はまた、返事ともため息ともつかない息を溢した。
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