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一章 地盤
窓の向こうに映る、校舎の周りにある欅の木を見た。
窓が少し開いていたので、何となく葉っぱの芳しい匂いが私の鼻へ伝わったような気がした。
―この苛立たしくて仕方がない教室を中和させてくれるかのように。
ここは、1年D組の教室だ。こう見えて授業中である。
あまりの騒音で、ゲームセンターと勘違いする者もいるだろう。残念ながらこれが現実だ。このクラスに入って半年、初めて私は「学級崩壊」という現象に出会った。これに出会った感想を一言で言うと、「最悪」。別の場所に言い換えると「無間地獄」。
「そこ、静かに!」
本日三回目の先生からのお叱りだ。しかし、騒音は一層に静まることはない。このクラスメイト達に「先生の言うことを聞く」というプログラムはどうやら導入されていないみたいだ。
もしも私に「権力」があるならば、すぐにでもこの教室を静かにできるだろうに。見せかけの権力ならあるが、その権力を確実に利用するには難しいのだ。
私はひたすら先生の板書をノートに写す。正直私は予習してあるので、こんな事しても意味はないのだが、後にノート提出があるので、念のため綺麗に写す。写し終わり、暇になったのでノートの端っこに落書きをしてみる。手で上手く隠しているのでばれて怒られたことは一度もない。30秒後、ある青年の絵が描けた。紅い長髪の美青年。服装はチャイナ服のような衣装にロングスカート。どこかの貴族をイメージしてみた。名前は……と、考えているとスピーカーから安心感のあるチャイムが教室に鳴り響いた。すると騒音は嘘のように止んだ。
「起立」
私は休戦の合図を出した。
「気を付け、れい。」
周りはだらしない「ありがとうございました」を黒板に見せつけた。
「虎白、食堂行こう。」
翠子の呼びかけでもう昼食の時間だと気づく。翠子は一番付き合いが長く続いている友人だ。運動神経が良くて、何か困ったことがあったら相談し合える頼もしい女の子。
「今日も五月蝿かったね、授業中。」
翠子が話を持ち掛ける。どうやら話したいことが一致したようだ。
「それな。マジでどんだけ授業中話したいんだよあいつら。先生イラついてるどころかもう呆れてたよ。」
「しかも話してる内容聞いてるとさ、ほぼ愚痴。それか他のクラスの恋愛事情とか。ほんと下らないしうるさいし。」
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