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何の恐怖や焦燥も感じなくてもよい。感じるのは安心感のある孤独だ。便器に座り込むだけで何と落ち着きのあることだろう。そしてしんとした個室トイレの空間でゆっくりと、何も考えずに、用を足す…はずだったが、何か嫌なものが来る気配がする。5秒後、その嫌な気配の正体がわかった。帯革深紅…とその従者達だ。
「それでさー」
「アハハ」
折角のトイレタイムをよくも滅茶苦茶にしたな。という怒りもあるが、それよりもこの個室トイレで出るはずのない感情、恐怖が私の怒りを抑えつける。
「ねえ、聞いた?」
帯革の声だ。
「この前…」
私は固唾を呑んだ。次に彼女が口に出す人名が何なのかを…。どうか自分の名前が出てこないようにと…。
「鳥鼠が既読無視しててさぁー」
ほっ…。と思わず声に出してしまったが、どうやら彼女達には聞こえていないようだ。帯革深紅。彼女は私のクラスの女王だ。簡単に言うと、女子生徒の中で一番の権力者だ。彼女に不満を持たせれば、クラスの8割に軽蔑され裏で虐められ、最悪の場合、不登校や転校までに追い込む典型的な虐めっ子だ。なぜ皆は彼女に敬い従うのか、彼女は有名企業の社長の娘という肩書を何かあったらそれを利用し脅す。もう一つ、これは彼女が完全で瀟洒な従者を増やす為だと考えられるが、友達(彼女に従う者)の誕生日の日やクリスマスには、豪華なプレゼントをいただくことが出来る。私は正直そんなものを豪華だとは思ってもありがたいとは思わない。どうせ高級でも、感情がこもっていなければゴミと同然だと私は考えているからだ。でも彼女に脅されたり目を付けられたという理由で不登校になるのは嫌だ。転校理由が帯革に負けたからだなんてみっともない。だから、私は、いつまでも、言いたいことが言えないのだ。ああ、もっと心の強い人間に生まれたかった。例えるならば、誠実な為政者。絶対に妥協しない、何も恐れることなく主張できる、尊ぶべき為政者に。そう思っている間にも、帯革と愉快な従者達の第257回他人の悪口で満足感を得よう大会は盛り上がっていた。なんてくだらないんだ。という一言でさえ言えない。
「あ、深紅ちゃん…」このか細い声は…誰だっけ?
「由香利ちゃん!昨日の誕生日プレゼント受け取ってくれた?」
「え、あ、…うん。」
「良かったー!由香利ちゃんに似合うか心配だったんだけどぉ」
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