再会

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 でも久しぶりにこの土地を訪れて二日も経たない皐月にはなんの動物の鳴き声なのか見当もつかなかった。  ただ道ばたや田んぼのそこかしこに濃くうずくまって時を待つこの地の夜が、皐月が知る夜とはまったく違う顔を見せようとしていた。  そろそろ戻ろうと潜戸から中に入った時、少しヒステリー気味に高い声が響いた。 「お姉ちゃん! そんなとこで何やってんの?!」  六歳下の妹、依舞(えま)だった。  皐月が顔をあげると、食器を重ねたお盆を手にして、廊下の硝子の引き戸を開けて立っている依舞の姿があった。  周りの通夜客たちが驚いたように立ち止まったり、依舞の方に顔を向けたりしている。  普通の声で喋ることさえ憚られる空気を一瞬凍らせて、依舞はハッとしたように口をつぐんだ。  罰が悪そうな神妙そうな顔つきになって、通夜に訪れた人たちへ頭をさげた。  大声を出させる原因となった皐月も頭を下げ、慌てて広縁に駆け寄った。 「もー恥ずかしいじゃん! 姿見えないと思ったんだよね。手が足りないんだから、ちゃんと手伝ってよー」  大学生ながら通夜振る舞いの手伝いをしっかりこなしている依舞は、さっきよりは格段に声量を落として皐月をなじった。  さすがに早朝からの準備に追われて疲れが出てきたのか、普段の無邪気さはなりをひそめて険のある表情をしている。
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