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都会でなら、葬儀社がいろいろ動いてくれるけれど、北関東の奥田舎のこの辺りでは、というより、この祖父母の家の流儀では、葬儀社よりも身内である遺族がすべてを采配するのだという。
礼を尽くす相手である寺さえどこか脇役のようで、長男である喪主の伯父と祖父母の手伝いだった小里という老女が一切を仕切っていた。
通夜振る舞いくらいは仕出しを頼めばいいと親戚の誰かが口を挟むと、本家には本家のしきたりがあると却下されたというのだから、古風というか一貫している。
おかげで身内の女性たちは、下ごしらえも含めて昨日から準備をして、朝も早くから料理の手を動かしてきた。
皐月や依舞のように遠方から来た親族は、その準備に早くは加われない分、しっかり手伝っていくことしかできなかった。
襖や障子を取り払って広くなった大座敷に並んだ大皿料理だけを見れば、天ぷらや揚げ物、刺身や巻き物や煮物など、豪勢なものばかりだ。
もちろん子どもにはジュースが、大人にはビールや日本酒が用意されている。
座卓を囲む人たちが喪服を着ていなければ、さらに、そこかしこで近所の者同士や身内同士、知り合いなどの間で挨拶がひそひそと交わされ、辺りを憚る雰囲気がなければ、ただの田舎の酒宴にしか見えなかった。
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