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大座敷にいれば、遺族であり若い社会人の皐月はどうしたってビールだの日本酒だのを注いでまわる役になる。
先ほど喪主による頭の挨拶だけ顔を出して逃げ出してきた理由も、その度に幼い頃の自分を引き合いに出され、引き止められればやがて彼氏だの結婚だのと話題にされて、気疲れと気の重さに手伝いを口実に早々に逃げてきていた。
「お姉ちゃん、社会人でしょ。お酌ぐらい踏ん張ってよー……」
「うん、ごめん。ちょっと外の空気吸うだけのつもりだったんだけど……」
「ちょっとじゃないでしょ。とりあえず洗う食器が溜まってきたから、そっちお願い。ママたちもいっぱいいっぱいだから」
入れ替わり立ち替わり、通夜に訪れる弔問の足は途絶えない。
それに応じて、通夜振る舞いの料理の追加やら片付けやら、身内の女性たちは落ち着いてなどいられなかった。
依舞は、縁台にあがった皐月の前でふと長屋門の方に目をやり、それまでの表情をひっこめてため息をついた。
「おじさんたちは酔っばらっちゃってるし、手伝いで目まぐるしいし。なんか、おばあちゃんのこと悲しむ暇ないね」
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