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「ありがとうございます。でも手伝いながらつまんだりしてるから、何気に食べてるよね?」
依舞が「なんだかんだねー」と頷く。
「遠慮せんでいいからな。ばあさん、皐月ちゃんを可愛がってたべ。皐月ちゃんがいるだけで、皆の思い出話に花も添えられるもんってんだ」
「はい……ひと段落したらまた顔出すようにします」
「……ばあちゃんがいねくなっただけで、屋敷がこんな広く感じられるとはなあ」
去り際に呟かれた言葉に、思わずハッと胸を突かれた。
祖母の気配が薄れている屋敷で、伯父のように酔っていても偲び方は人それぞれだ。
必ずしも悲しい顔をして見えているとは限らない。
それに、と思いながら、「おじさん、大丈夫かな……」と、依舞が心配げに呟くのを聞き流しながら、トイレのある方角へ向かう伯父の背中を見送った。
屋敷に来てから、なぜか小さな頃訪れていた屋敷の雰囲気とは違う気がしていた。
久しぶりの訪れのせいだと思っていた。
それに親族も皆いる。故人を偲ぶ場としては賑やか過ぎるほどだ。
でもどこか寒々しかった。
歩けばかすかにたわむ畳も、長い廊下のきしむ音も、その音がいつもより切なく聞こえていた。
それはてっきり、葬儀という場のせいだと思っていたけれど、本当は、この屋敷に暮らす人たちから伝わる喪失の痛みを、この母屋も感じとっているからなのかもしれない。
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