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夕方と夜の移りゆく逢魔が刻の名残か、コンクリートで固められた二十畳はありそうな暗灰色の土間は、茫洋と不思議な暗さに沈んでいた。
いまだにリフォームをしない土間の台所は珍しい。
サンダルで降りると、ひんやりとした空気が足元を包んだ。
一瞬身を縮め、その温度も片隅に溜まる夕闇も振り払うように電灯のスイッチをいれた。
煌々とまばゆいばかりの白色の光が辺りを隈無く照らした。
「あ……、皐月ちゃん?」
低い声が少し離れたところから届き、人がいると思っていなかった皐月は小さな悲鳴をのみこむようにして顔をあげた。
皐月が土間に降りるのと入れ替わるようにして、土間から上がり框に片足をかけた男の人がいた。
黒く濡れた切れ長の目がかすかに見開いた形で皐月を見ている。
同時に降りかけていた依舞が、皐月とその男性にちらりと視線を走らせた。
「皐月ちゃん、……だよね? 覚えてない? 小さい頃よく遊んだ」
脳裏に狐の嫁入りの列が閃いて、それから笑い合う子どもの声がよみがえった。
「もう10年以上も会ってなかったから分からないかな、悟の息子の白彦(きよひこ)なんだけど……」
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