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「通夜だっていうのに、喪に服すどころじゃないんだ、親父たち」
そう言って、白彦は苦笑しながら片手に掴んでいた一升瓶の日本酒を軽く掲げて見せた。
酒豪でならす伯父たちらしいと口元がほころんだ。
好んで飲むかどうかは別にして、母方の血を濃く受け継いだのか、皐月も依舞も酔いはしても酒に呑まれることは少ない。
「皐月ちゃん、まだこっちにいる?」
白彦は大座敷の方に視線をやった後、かすかに首を傾げながら皐月を見つめた。
黒く艶のある前髪がさらりと揺れて、ようやく目の前の白彦が、とてもきれいな男性に成長していることに気づいた。
どこか人間離れした、触れてはならない気高さ、みたいなものさえ漂わせている。
「うん……、有休とったから」
なんとなく気後れして、隔たっていた年月の長さが急に皐月と白彦との間に横たわって引き離したようだった。
さっきまでの懐かしさよりも緊張の方が強くなったようだった。
「じゃあ、少しは話せそうだね」
白彦がホッとしたように笑みを浮かべた。
昔、遊んでいた頃によく見知った柔らかさが彼からにじみ出て、かすかに緊張がとけた。
近づきがたい印象を与えても、思い出の中の白彦と変わらない部分もある。
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