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だから皐月が東京に帰るための別れが近づくと、二人して一緒に泣いて、もっと遊ぶもっと一緒にいると駄々をこねた。
二人とも泣き腫らした赤い目で、農道に立ち尽くし皐月が乗った車をずっと見送っていた白彦の姿も、豆粒のように白彦の姿が小さくなっても後部座席の窓に張りついて、白彦を見ていた自分のことも、今ははっきり思い出していた。
そんな記憶を宝石の欠片を抱きしめるように反芻していると、軽く背中を叩かれた。
「ちょっとー、あたしのこと忘れてない?」
「えっ、あ、ごめん」
「ま、いっけどぉ。なんなのあのイッケメン。あんな人、身内にいたっけ?」
依舞が興味津々の顔をして、大座敷の方を伸び上がるように見た。
「うん、悟伯父さんとこの一人息子。小さい頃、ここでよく遊んでたんだよ。今の今まですっかり忘れてたけどね」
「ええ? あたし、全然記憶ないよ?」
「よく遊んでたのも、依舞が産まれる前後くらいが多かったしね。その後だって依舞は本家に来てもお母さんにべったりだったから。それに結局……、親戚とは疎遠になったし、ね……」
「ふぅん、そっか……」
小さな頃どんなに仲が良くても、その絆は成長とともに保たれなければ当然、脆く儚い。
素直に喜びを顔に浮かべていた白彦は、皐月と違ってまっすぐ育って来たのだろう。
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