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それに比べて、自分がかわいくなく育ったかと思うと気持ちが塞ぎかけた。
その時、依舞がキッチンのシンクに洗う器を置く音がして、皐月はハッと顔をあげた。
後ろ向きになっている場合ではない。
「洗わなきゃね……、え、すごい量」
シンクを覗きこんで袖を折りながら、気合いをいれなおした。
「うん、じゃ私、空になった他の食器さげてくるから、よろしくぅ」
一緒に洗ってくれるものと勘違いして、「えっ」と声をあげた皐月に、依舞は可愛らしく片手を敬礼のように額に当てた。
「ちょ、ちょっと、依舞?!」
軽く肩をすくめて、依舞はどこか楽しげな光を瞳に宿して手のひらを振ると、身を翻して大座敷の方に走るようにあがっていった。
明らかに白彦のことを探る気満々の顔をしていた。
「……もう」
しばらくは白彦の様子を伺いながら親族を接待してくるだろう。
依舞は自分と違って社交性が高い。
そのひとかけらでも自分にあればよかったと、皐月はため息をついた。
さきほどまで伯父たちが祖母のことを悲しんでないと文句を言っていた割には、その無邪気さが少し羨ましい。
皐月にもそんな時期が確かにあったはずなのに、今はそうだった時の感覚さえも思い出せなかった。
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