狐面のこども

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狐面のこども

シンクには、通夜振る舞いの名残そのままに、茶やビールのグラス、料理を用意していた時に使った鍋やタッパーの類が投げ込まれていた。 水道の蛇口をひねると、勢いよく出てきた水は切るような冷たさだ。透明な水はあっという間に洗い桶の中の器を浸していく。 白彦と会わなくなったのは、同時にこの本家に遊びに行かなくなったというのと同じだ。 会わなくなって十年以上と白彦は言っていたけれど、実際は十五年にもなる。 小学五年を過ぎた頃からだった。 両親の仲がうまくいかなくなり始め、中学生にあがると同時に、父と母は離婚することになった。 別れるとか別れないとか、皐月たち姉妹の親権とか養育費とか、それぞれの思惑がぶつかり、 日を追うごとに両親の間には喧嘩が増えていった。 振り回され、めまぐるしかったあの頃のことは、正直もうよく覚えていない。 ただ両親が揃っていても家の中の空気が重苦しく、その印象ばかりが記憶の底で澱むように残っている。 その毎日の中で幼い妹の笑顔を守れるのは自分だけだと、妹の目に両親の醜さを見せまいと、皐月は必死だった。 離婚の原因が父の浮気だと知ったのは、両親が離婚した後だった。     
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