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ある晩、珍しく深く酔って帰ってきた母がこぼした愚痴からだ。
つきあいで飲むことはあっても、深酒することは少ない母だったから、その記憶は鮮明に残っている。
離婚するまで外に働きに出たことがなく、ずっと主婦だった母は、いきなり娘二人を抱えて生きていかなくてはならなくなった。
父から定期的に振り込まれる養育費だけではとうてい足りず、
しばらくはこの本家からの援助も受けながら働き口を探していた頃だったと思う。
あの時の母の父への恨み節は、今も腹の底にどんよりと残っているような気がしている。
正直、離婚前にその事実を知ってしまったら、皐月の心はもっと自暴自棄になっていたかもしれない。
それを留めたのは、ただひとえに依舞がいたからだった。
母は、運よく正社員として採用してもらって毎日朝から晩まで働きに出るようになった。
当然、それまでことあるごとに帰省していた祖父母の家に行く余裕などもてなくなる。
皐月も母が不在の分、まだ小学生低学年だった妹の世話や家事を引き受けることが多くなり、おのずと毎日は追い立てられるように忙しくなった。
だからといって、勉強も部活も疎かにはできなかった。
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