特別な日

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昼が過ぎた。私は小さく咳をした。 何かを作っていたAが私のほうを振り向き、飲み物を用意してくれた。 Aは私を膝に乗せ、水を含んだ綿で口の周りを湿らせてくれた。 いよいよその時が来たようだ。 Aは涙ぐんでいる。『泣かないで』と言いたくてまた咳をした。 Aは「もういいよ、もう頑張らなくていいよ」と私に語 りかけた。 そうか。もういいんだね。じゃ安心していくね 。 かすかな意識の中で私は微笑みながらそう思った。 「19年一緒にいてくれてありがとう。私のエゴに付き合ってくれて、うちに来てくれてありがとう。そのうち私もいくからね」 『そうだね。待ってるね。でもゆっくりおいでね』 あの時の私は880gしかないちび助だった。 狭い場所に閉じ込められていたら、Aがやってきた。 ごはんをくれる人にAが何やら言って、私はそこから出ることができた。 あの時から19年。いろいろあったね。 Aと私は違う種族だけど、仲間だったね。最初会った時「少なくとも15年は一緒にいてね」って言われたから、約束守ったよ。 出会ったあの日も特別な日。今日も特別な日。今朝の握手の温もり、私も忘れないよ。 また会おうね。その時は私の好物の鰹節持ってきてね。 (了)
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