俺の机にチョコレート

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「なにを悶えているの。彼氏や彼女が欲しいなんて、高校生なら常識的な欲求でしょ?」 「意味わかんねぇ。だいたい営業努力ってどういう意味だよ?」 「もし、その子と吉澤が付き合うことになったらうちのチョコレートが思い出の味になると思わない?」  俺の疑問に槙村は爽やかに答えて見せた。……確かに、それはそうかもしれない。涼子、一年生のことを下の名前で呼びたい。俺は迂闊にも電車のなかでの出来事を思い出してしまった。  槙村は腕まくりをしながら言った。 「付き合うか付き合わないかは、あなたたちの勝手よ。でも本当に付き合うことになったら、うちのお店でホワイトデーのクッキーを買ってね。当然でしょ、私がきっかけを作ってあげたんだから」  返す言葉もない。俺は大塚のほうを見つめた。大塚はただただ困っているようだった。  槙村が言った。 「こういう時は、男子から先に声を掛けるべきじゃない?」 「ち、うるせぇな……」  こういうのが苦手だから学園カーストが低いのに……。でも高校生活で二度目の幸運がやってこないだろうことははっきりと想像できた。  俺は吹奏楽部の一年生を見つめた。 「……大塚、俺と付き合わないか?」  果たして上手に言えただろうか?
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