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1803年9月15日シャラントン精神病院にて・・・・・・
1801年。ナポレオン・ボナパルトは、『美徳の不幸』と『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』を書いた人物を投獄するよう命じた。そのため私は裁判無しに投獄され1803年に心の病んだ者達の楽園へと放り込まれた。しかし意外と居心地がいい。今日からここを第二の家と呼ぶことにしよう。
そういう事にしてから数ヶ月の月日が流れた。朝食は粗末なパンと温くて不味な野菜のスープ。後は苦い薬。いい時にはカビの生えたケーキと安物の紅茶が配られる。革命が終わっても弱者に対する迫害はとどまるところを知らない。だが・・・・・・
「悪徳こそわれわれ人間に固有のもの。常に自然の第一法則なのであってそれにくらべればどんなりっぱな美徳だって利己主義的なものでしかなく分析してみれば実は美徳そのものが悪徳なのだということが。要するに、人間におけるいっさいは悪徳なのだ。」
私はこの言葉の信者だ。こういう考えは考えるほど本当の美徳を学ぶことができる。私はなんて才能豊かなのだろう。それ故に自分が恐ろしい。さて、自分自身に酔いしれるのはここまでにしてそろそろ下の階に行って不味い紅茶片手に自分だけのティータイムを楽しむことにしよう。
もう私の命はそう長くはないだろう。死んで行き着く先は天国か地獄か、それとも虚無の世界か・・・・・・まあ、居心地がいいならどこでもいい。そんな考えを頭に浮かべながら今日も下の階に下りていく。
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