不思議な鏡

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不思議な鏡

 今日は特別な日  十歳、二十歳、三十歳  その特別な誕生日──  過去から、未来から、何かを受け取る為の日。 私の家に伝わる不思議な鏡の魔法。それは十年の時を超えて自分にメッセージを届ける。 十年前の自分と十年後の自分に、鏡を通して会うことができるのだ。そう、この特別な誕生日の日に。  二十歳の私は今から、十歳の自分に会う。  十歳の時の記憶の中の自分と寸分違わぬ姿で、その瞬間を待つ。  十歳の時、とても大きく見えた扉も暖炉もソファーも、今では自分の身丈に合ったサイズになっている。  壁に掛かった大きな鏡。  セピア色の部屋の中で、それだけは今も大きな存在感を放ってそこにある。  楕円型の大きな鏡。  艶々と黒光りする木の飾り枠に縁取られ、部屋中の光を吸い込みながら、まるで何百年も生きてきたかのよう……  私はその鏡の前に立つ。  受け取るのは、十歳の自分と三十歳の自分から、二十歳の自分へのメッセージ。  鏡に映る姿はゆらゆらと揺らめいて、今でない時を映し出す。  十歳の自分が送ったメッセージは、鏡から受け取るまでもなく記憶の中にある。  私が今から十歳の自分へ送るメッセージも、もちろん記憶の中にある。     
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