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あれからアスカはときどきここに来るようになった。
気持ちが切れそうなときや、気分がのらないとき、どうしても読みたい本があるとき。
理由は様々だったが、折にふれてはここへ来て進まない時を過ごした。
時が進まない。
その為か、ここにいる間は空腹感も疲労感もない。
喉も乾くわけではなかったので、ペルになぜお茶を飲むのかと聞いたことがあった。
そのときの答えは、「自分を保つためにしている習慣」だといっていた。
水分補給が目的ではなく、『お茶を飲む』という行為そのものが目的なのだという。
アスカにはよくわからなかったが、ペルが出してくれるお茶は香りもよく、
どれも美味しいので出されるときはその「習慣」というものに付き合った。
ただ、最初に言われた通り、3日以上ここに留まることはなかった。
「平安時代の話。
下人…身分の低い男が、仕えていた家の主人から仕事をクビにされてしまう。
途方に暮れた男は羅生門という、門の下まで来る。さて、仕事も金も食べるものもない。どうしようかと。」
ペルが話したがっているようなので、アスカも体を起こして、ペルに向かい合うと読んでいた本に栞をさした。
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