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「でもね、この物語、最初のころは
『下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ強盗を働きに急ぎつつあった。』
だったんだ。つまり男は強盗になったって書いてあったんだよね。」
「ふーん…じゃあ、男のほうは強盗犯にならなかったかもしれないってこと?」
「かもしれないね。」
「老婆は?」
「老婆についてはその後の記載はないね。」
ペルはゆっくりと時間をかけて紅茶を一口飲んで
「さて、どう思う?」
じっとアスカを見つめていった。
不安、孤独、偽善、建前、同情、利己主義。
時代が変わっても人の本質なんて変わらない。
人間の感情なんていつだって同じ。
あっけないほど自分の都合で簡単に変わる。
昨日まで愛おしいと思っていても、次の日には攻撃対象となる。
人が人を一方的に踏みにじる光景も、信頼があっけなく裏切られる光景も何度も見てきた。
自分がそれに流されていることも十分にわかっている。
自分がそれに影響されていることも痛いほどわかっている。
そのたびにはりぼての自分を作って、言い訳をして、自分の大切な何かを剥ぎ取られないようにしているのだ。
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