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【硬い殻のように】
白い世界の中、唯一ある黒い建物の前でアスカは地面に両手をついて息を切らせていた。
気づけば【スイッチ】を押して、ここまで走ってきた。
全力で走ってきたせいで、アスカの肩は大きく上下する。
目の前に見える白い地面に、いくつもの水滴が零れ落ちている。
目の端からとめどなく流れる。顔を手で覆うが、止められない。
胸が今まで感じたことがないぐらい締め付けられるのが分かった。
口元に手を当てて、声が出るのを押さえつけた。
けれど、嗚咽は止められなかった。
信じれば裏切られる。
わかっていたことではないか。
何度も、何度も、何度も経験した。
自分が善いと思っていようと、相手にとってそれが善いなんて限らないのだ。
私なんかが調子にのった罰だ。
わかっていた。でも信じたかった。
まだ幼い頃、人間は裏切る生き物なのだと知った。
幼いから残酷に感じたのか、幼いから残酷にされたのかわからない。
ただ、他人と関わることが嫌になった。
でも、私はチョロい人間だから。
もしかしたらって思ってしまったんだ。
光り輝く世界があるのかもしれないって。
その世界に行けば、きっと全てがかわるのかもしれないって。
結局、そんな世界はなかった。
あったのは人と人が関わりあう、自分が知っているものと大して変わらない世界。
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