百メートル先の世界

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「すげぇ違う。お前いつも俺がお前のことこうやって運んでると思ってんの?」 「え? 違うの?」 「全然違う。……ん? 一回だけこの持ち方もしたことあったかも」  持ち上げたまま会話していても、気にならないほど軽い。いや、軽くはないが、とても安定していていつもみたいにずり落ちそうで不安になることがない。 「いつもよりずっとラク。今度からお前運ぶときはこれで頼む」 「いや、俺に意識があるときにお前に運んでもらう理由がないから」  言われてみればそうだ。正論すぎるツッコミに逆に愉快な気分になっていると、遠くの方で女子の歓声が上がった。  確か、今日女子は走り幅跳びの測定をしているはずだ。よほど良い記録が出たのかと顔を向けると、なぜか複数の女子がこちらを指差しきゃあきゃあ騒いでいた。 「何であの子たち、こっち見てるんだ?」 「さぁ? っていうかそろそろ下ろすぞ。重くなくても重い」 「お前が持ちたいって言ったくせに」  危なげなくグラウンドに降り立った久永は、こちらを見てはしゃいでいる女子に手を振り返した。さすがイケメンはナチュラルにこういうことをする。  手を振られた女子たちは、一種異様なぐらい盛り上がった。さすがのモテ男久永も、この反応は想定していなかったのか、びびって俺のジャージの裾を掴んできた。
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