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するとさらに怒号にも似た嬌声が上がり、久永以上に俺が驚いた。
「おい、柔軟終わったぞ。短距離測るから、並べってさ」
久永と顔を見合わせていると、クラスメイトの安本(やすもと)が声をかけてきた。ちなみに、コイツは名前順で言うと俺の後ろになり、うちのクラスは安本で最後だ。
いつの間にか体育教師は帰ってきていて、ストップウォッチ片手に百メートル先に立っていた。カラーコーンが示すスタート地点の前にはクラスの大半の生徒が並んでいて、俺たちも大人しく列に加わった。
「お前ら、分かっててやってるわけ?」
並んでからしばらくすると、安本がこめかみを抑えつつ尋ねてきた。
「何が?」
主語を省いた問いに、何を言われているのか皆目検討もつかない。目で久永に問いかけるが、向こうも無言で首を振る。
「……いいか、俺は善意から言ってやるんだからな。恨むなら自分たちを恨めよ」
遠くで体育教師が笛を吹くたびに列はちょっとづつ前へ進んでいく。
安本はこの抜けるような青空の下で、何を言い出すつもりなのか。やたらと持って回った言い回しにほんの少し緊張しつつ、俺たちは次のことばを待った。
「お前ら、何かよくわかんねぇけど、女子に人気なんだよ」
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