百メートル先の世界

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 しかし、やけに勿体つけたくせに、出てきたのはごくつまらないセリフだった。 「おいおい、分からないこたぁねぇだろ。久永は見ての通りイケメンだし、俺は身長が高い。理由は明白だ」 「ちげぇよ! ムカつくな。そういう人気じゃねぇんだよ。お前ら、ふたりセットで人気なんだよ。意味わかるか?」 「いいや」  一体安本が何を言いたいのかは知らないが、言いたいことがあるなら手短にしてほしい。短距離走の列は着々と数を減らし、俺たちの番は確実に近づいてきている。久永の前に走る予定の能登(のと)は振り返ってこちらを見ていた。  ……その視線がなぜか哀れむような色をしている気がするのは、俺の気のせいだろうか。 「SNSでタグ“保久”で検索してみ? お前らのツーショット写真、いっぱい出てくるし、それ見りゃ俺が何が言いたいか分かるから」 「ん? 俺らの写真が出回ってるの? なんで? 意味わかんないんだけど」 「俺だって、お前らが付き合ってる、って妄想して、何が楽しいのか全然分かんねぇよ!」 「!」  安本の衝撃発言に、久永が大きく肩を震わせた。そりゃそうだろう。新緑の香るさわやかな体育の授業中に持ち上がった、とつぜんのホモ疑惑だ。ただでさえ久永は貧血なのに、余計な負担をかけてどうする。
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