百メートル先の世界

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 颯爽とグラウンドを駆け抜ける久永を眺めつつ、これだけの俊足が貧血ってやっぱり結びつかないよなぁ、と思う。  別に俺だって、やりたくてアイツのお守りをしているわけじゃない。でも、倒れてまた頭でも打ったら一大事だし、気をつけて見てやろうと思うのはごく一般的な人情だと思う。  ゴールに辿り着いた久永はやはり順番を勝手に変えたことで、体育教師に叱られているようだった。だけど誰に対してもやさしく人当たりの良い久永は、たいていの教師にも好かれている。今回も軽い注意で済んだようだ。  炎天下を急に走ったりして、久永は大丈夫なのだろうか。懸命に目を凝らしてもさすがに顔色までは分からなくて、もし今久永が倒れるようなことがあれば、誰か気づいてくれるように切に願う。  だいたい、どうしていつも周りのヤツらが気づかないのかが不思議なくらいだ。  だって、久永が倒れそうなときなんて、いつもアイツを見ていればすぐに分かるのに。  そこまで考えたときに、はっとした。  そうだ。俺は、いつも久永を見ているんだ。  心配だから。気になるから。目が離せなくて。 ――……本当にそれだけ?  とつぜん脳裏に浮かんだ自分の考えに呆然自失していると、安本に腕をひかれた。視線を上げると、遠くで体育教師が準備しろ、とジェスチャーしている。
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