百メートル先の世界

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 このトラウマ体験以降、俺はそれとなく久永を気にかけるようになった。そんな気が利く俺のおかげで、その後再び彼の頭と床が仲良くなるような事態は防げている。今ではコイツが卒倒する度に、こうして支えてやるのが、俺の役割のようになってしまっていた。  しかし二年生に進級すれば、クラス替えと共に久永のお守りから解放されるかと思っていたのだが……、何の因果かまた同じクラスになってしまった。  仕方なく気を失った久永を肩に担ぎ上げる。  水を打ったように静まり返った体育館に、再び数名の女子の悲鳴が上がった。倒れたときなら分かるが、このタイミングで何に驚くことがあったのか。耳障りな甲高い音に、イライラしながら担任を目で探す。 「すみません、コイツ保健室連れて行きます」  駆けつけてきた担任に声をかけて、肩からずり落ちそうになる同級生を担ぎ直す。意識のない身体はぐにゃぐにゃしていて持ちにくく、やたらと重い。  だいたいコイツは俺とせいぜい五センチ程度しか身長が変わらないのだ。他のクラスメイトだって手伝ってくれても良さそうなものだが、みんな当然のように俺がひとりで連れて行くものだと思っている。  遡ること一年ほど前、最初に倒れたとき、久永はわりと小柄だった。かったるい集会をサボれるいい口実が出来たと、軽い気持ちで抱え上げ、保健室へ連れて行ったのが運の尽きだった。 「おー、保志場(ほしば)、頼むな」
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