百メートル先の世界

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 ベッドから下りて壁に近づく。窓ガラスを大きく開けると、五月の風がカーテンをはためかせながら通りぬけた。  気持ちがいい。少しは久永の気分もよくなるといいのだけれど。 「お前だって倒れたくて倒れてるわけじゃねぇだろ」  苦笑しながら振り返ると、久永はぽけっとこちらを見ていた。  まだ眩暈がするのだろうか。  少し心配になって、ベッドに近づき、ぼんやりと潤んだ瞳を覗きこむ。  しかし目が合うと、久永は慌てて掛布団を引き上げ、顔を隠してしまった。  久永の時折みせる、こういうしぐさが下手な女子よりかわいくて困る。クラスの女子は、久永くん格好いい、と騒いでいるが、それは相手に偶像を押し付けている証拠だ。きちんと観察していれば、コイツは絶対かわいい系だと断言できるのに。 「ていうか、俺が言いたかったのは、何でいっしょのベッドで寝てるのか、ってとこなんだけど」  ベッドの山の眺めていると、布団の下から早口が聞こえてきた。 「ばっか、お前、違うベッド使ったらシーツ替える手間が増えるじゃねーか」 「集会は普通にサボるくせに、そういうとこは気ぃ使うのな」 「俺が集会サボったって誰も困らねぇけど、シーツ替える手間増やすのは迷惑だろ」  当然の理論を説いてやると、そろそろと久永が顔を出した。
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