愛憎の果て

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 秀一が美姫の手を取って引き寄せ、細い腰に腕を回した。甘い口づけがうなじに落とされ、美姫がフッと吐息をつく。そのまま、誘惑に引き寄せられそうになる。  だが美姫は、震える声で、しかしはっきりと秀一に向かって告げた。  「秀一さん……私は、ウィーンへは行きません」  秀一の美しい眉が、みるみる上がる。うなじに寄せていた唇を離し、正面に見据えた。  「み、き……何、を……言っているのですか。ここ、日本にはもういられないと言ったのは、貴女ですよ。私たちが日本にいる限り、マスコミに追いかけられる日々を過ごさなくてはならないのですよ?」  美姫は悲愴な表情を、彼の訝しむ瞳に映りこませた。  「お父様の余命は……2年もたないかもしれないと、聞かされました。さまざまなストレスが重なってしまったことが原因で、心不全を起こしたのだとも……   お父様を死の間際に追いやってしまったのは、私なんです」  秀一は兄の余命が2年であることにショックを受けるよりも、そう告げた医師を、美姫を両親の元に送ってしまった自分の甘さを憎らしく思い、ギリッと歯噛みした。
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