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男が秀一を席に下ろし、シートベルトを掛ける。意識を失い、手足をだらんと下げている秀一の様子を見て、美姫の胸はズキズキと痛んだ。
「本当に……いいんですか」
智子が、美姫を心配そうに見つめる。
「はい。お願いします」
美姫は青ざめた顔のまま、しかし、はっきりと言った。
「私がもいでしまった秀一さんの羽を……どうか、取り戻させて下さい。
彼が世界に羽ばたくピアニストとなれるよう、支えてあげて下さい」
智子は、意識を失っている秀一に目を向けた。
「来栖さんは……私を恨むでしょうね。
それでも私は……マネージャーとして、世界に誇るピアニストである来栖秀一を支えていくつもりです」
「ありがとう、ございます……」
美姫は、深々と智子にお辞儀をした。
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