帰還 #2

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帰還 #2

 秀一の演奏が始まると、半年という長期間の間消息を絶っていたピアニストの出演に対して疑心暗鬼だった聴衆たちの予想は、見事に裏切られることとなった。    ラフマニノフの曲への想いと秀一の演奏が彼自身の感情も伴って同化していくかのように、それは溶け合い、絡み合い、複雑な旋律と共に迸っていった。彼らの孤独が、焦燥が、挫折感が、悔しさが……指先からだけではなく、秀一の躰全体からオーラのように発されていた。  まさに、魂の籠もった演奏そのものだった。  最後は「ラフマニノフ終止」と呼ばれる、ラフマニノフの曲の終わりの常套句である「ジャンジャカジャン」という力強い音で演奏が終わった。
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