日記帳

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雪の降る日に一冊の日記帳を燃やそうとした。 自分にとって足枷になる。と前から何度も試みてはいたが、何故だかいつも燃やすのを失敗する。躊躇ってしまっていた。 いつもの通り橋下は暗くて寒いが、日記が強く燃えると少し明るく暖かいような熱いような感覚がした。隣で座る茶色で長髪の綺麗な彼女の頬がオレンジ色に染まっているのを見て「蜜柑みたいだね」と笑う。鏡を見て彼女も笑った。急に上を走ってきた徐行運転の電車の音が僕の笑い声も彼女の笑い声もかき消し、本についた火も消えそうになるくらい煩い。この日記に綴った僕自身の思い出も容赦なく消そうとする。だんだん音は頭の中で大きくなって、ついに夢の中に居た僕に 『隣には誰も座ってなんかいない』 と現実を知らしめる。 全てがまだ僕の側にあった頃の思い出が離れようとせずこびりついて、彼女との交換日記を燃やした今をもう遅いと笑う。 彼女は隣には居ない。 居なくなったのではなく、亡くなったのだ。 全てを振り返り自分の精神を整えようと息を吐くとと白い息がでて、吸おうとすると口の中が凍るように冷たくなる。 一人はこんなに寒いんだ。 最後まで一人で戦っていた彼女はどれほど寒く、辛かったのだろう。 僕の前で笑っていた時は、本当に幸せだったのだろうか。 ニュースを見たときに驚いたんだよ。声が出ないほど。君の名前が出ていて、それと一緒に校舎の屋上が映し出されてた。その番組では夜中に事故で足を滑らせて落下死したと書いてあったけど、僕は君がまずまず夜に家を出ることはないような性格だなんて知っている。 前から君が一人でクラスに馴染めないと笑っていたのも知っていたのに。 熱い目尻はついに我慢が出来なくなり、大粒の涙を流した。 一人の人間を弔う為の涙が。 長時間流れるであろう涙とは裏腹に、気付けば電車が通り過ぎていた。静かになった橋下には佇んで泣く僕と、彼女が残し僕がまた燃やせなくて大半が黒くなった日記帳。強くそして静かに降る雪しかなかった。
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