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僕の背中に隠れていたはずの葵が、予期せず僕の目の前に出てきた。 そして、上から振り下ろされたあいつの右手が葵の右肩を殴り、 殴られた衝撃で右側に倒れた葵は、壁に頭を打ち付けたのだ。 …嫌な音が聞こえた。 ゴッという、まるで骨が当たった音。 葵はそのまま床になだれ込み、起き上がらなかった。 起き上がらないまま、床に広がっていく赤い海。 瞬く間に起こったその出来事を、僕はすぐには呑み込めなかった。 「あおい…?おい、あおい…」 伏せったままの葵を、僕の方に抱き寄せた。 思いたくなかったけど。 考えたくなかったけど。 「…息、してない……」 僕は葵を抱き寄せ、鼻と口に手を当てた。 本来出てくるはずの息を、確認したくて。 でも僕が確認できたのは、呼吸をしておらず、心臓も止まっていることだった。 「母さん、葵が…!」 ハッと気づいた僕は、すぐ近くにいた母に助けを求めようとした。 でも、無駄だった。 今しがた葵を傷つけたあいつが、まだそこにいたんだ。 倒れた自分の娘には目もくれず、今は母の方を向いていた。 母は、そいつを見上げ、怯え震えていた。 腰を抜かしているのか、立ち上がることもできない様子だ。 母は頼れない。 でも今の僕に何ができる。 葵の頭からは、とめどなく血が流れ出てくる。 僕の手で必死に抑えるが、指の隙間から、抑えきれずに零れ落ちる鮮血。 (どうすればいい。どうすれば…) 僕はかなり動揺していた。 大量の出血と、呼吸をしていない妹を目の前に、 動揺するなという方が無理がある。 僕はあのとき、葵のことしか考えていなかった。
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