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マスコミは僕たちのことをすぐに嗅ぎつけた。
父親の暴力によって9歳の娘が亡くなり、
母親を助けようと、12歳の息子が父親を殺した。
しかもその息子は、自らの足で警察に自首した。
これ以上の話題なんて、中々ないだろう。
日常的に行われていた家庭内暴力。
もし母親が早くに助けを求めていたら。
もし母親が離婚していれば。
何もしなかった母親に対し、マスコミや世間は非難の言葉ばかり浴びせたという。
暴力を奮っていたのは、死んだ父親だというのに。
それから―――――
僕が自由の身になったのは、5年後のある日のことだった。
久しぶりに会った母はかなりやつれていた。
この5年で母が味わった苦労は、僕には想像もできない。
「何をしてるの、庵」
「…ちょっとあのことを思い出してたんだ」
「ごめんね、母さん」
僕は謝罪した。
亡くなった葵のことも、
僕が犯した罪のことも、
母さんを1人残して自首したことも、
すべて含めて、謝罪した。
そうして、密かに母を追い詰める。
母さんが謝るばかりで、僕らを守ってくれなかったこと、僕は忘れてないよ。
葵や母さんを守るために殺したのに、僕を拒絶したこと、僕は忘れてないよ。
僕はね母さん。
僕がした殺人ももちろん罪だけど、
母さんのように何もしなかったことも、罪だと思うんだ。
「母さん。僕、葵の分まで生きるよ」
こうやって、定期的に葵のことを思い出させてあげるよ。
あんなに幼い葵を、守らなったのは母さんだ。
法で裁けないその罪は、僕が必ず償わせるから。
そうして僕は、ニッコリと笑ってみせた。
母から見れば、孝行息子に見えるように。
いつかきっと、子供を守らなかったことを後悔させるために。
今はまだ、笑っててあげるね。母さん。
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