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【よう、遅かったやないか……】
道路を挟んだ向こう側、校門の陰から姿を見せたのは、黄色い横断旗を手にした大柄な一人の女性――――
交通指導暦300年を誇る奈落の守護神、オバ=チャン(48)である。
このオバ=チャン、実に七度目の人生。輪廻転生を繰り返しながら現場に立ち続ける交通指導員の化身である。
【今日もイイテンキやなあ】
百獣の王を思わせるパーマ・ヘアーと、端整な顔立ち。
体重80キロオーバーのたくましいボディに装備された緑色のゼッケン。
オバ=チャンが醸し出すその威圧感に、通学を断念して自宅に引き返した若者は多い。
そう。
この女性こそ、登校者たちの行く手を阻む最強の敵。いわば、勇次たちが突破するべき最初の関門であるのだ。
【おや、勇次。今日はチャリィ乗っとらんのか? どないしたんやあ?】
オバ、挑発する。
登校中の生徒を煽ることも、その仕事の一環だ。
「……チャリィは役割を終えた。もう還ってこない」
勇次は、言いたいことを飲み込み、その事実だけを淡々と伝えた。
【ほうかほうか! そら残念やったなあ! お気の毒やなあ!】
オバは大袈裟に笑いながら、まるで勇次に見せびらかすかのようにポケットから大量の画鋲を取り出した。
【ほんまにお気の毒やわあ……】
「――!!」
勇次、反応する。
『なぜ、チャリィは死んだのか』
その疑問の答えを、嫌でも悟ってしまったのだ。
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