奈落ジャンクション横断セヨ

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「きゃあああああああああああっ!!」  悲鳴を上げるユカリ。  しかしそれは、恐怖を主張(アピール)するものではない。  危機的雰囲気を意図的に作り出し、勇次の戦闘エネルギーを強制的に開放するための、反撃のシャウトである。 「危ないっ! 俺に任せろ!!」  シャウトを受けた勇次は猛る。  一歩前へと踏み出し、その左腕を大きく掲げる。  すると、あらかじめ装備していた特殊甲殻鞄籠手(とくしゅこうかくかばんごて)――《ランド=セル》が、紫色の光を放った。 『ランド・シェルター!!』 《ランド=セル》は、盾となった。  六角形に拡散する六角形の特殊甲殻バリアで、迫り来る七台のクルマリオンを全て受け止めたのだ。 「くうっ!」  衝撃に耐える勇次。  目の前では、七台のクルマリオンが怨恨まみれのエンジン音を轟かせながら甲殻バリアと衝突を続けている。  その左腕が限界を迎える前に、なんとか事を成さなくてはならない。 「横断開始だ! 行くぞ、ユカリ!」 「ええ!」  二人は、奈落に浮かぶ白線上へと足を掛けた。 「赤信号でも構わない……俺たちは学校へ行く!」  七台のクルマリオンを受け止めながら、勇次が先を行く。  その身体を支えながら、ユカリもゆっくりと歩を進めていく。  ユカリはバランスを取りながら、勇次の死角を補うために左右の確認を行う。 (今だ! ここしかない――)  そして隙を見計らい、天に向かって大きく右手を突き上げた。 「横断歩道は、手を挙げて渡りましょう!」  かつての偉人の格言を、高らかに宣告するユカリ。 (たとえ相手が暴走車両であっても、わたしたちが『横断中』であることを示さない理由にはならないわ)  どんな状況であっても、どんなにちっぽけであっても、自らの存在を走行中の車両たちに伝えたい――歩行者のプライドを剥き出しにした迫真の挙手。脱帽である。  しかし、その誇り高き主張は、操縦者(ドライバー)であるオバにはいまいち伝わらなかった。
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