陽だまりに微睡むような

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 月日が流れていくにつれて、リーリヤは色々なことを知っていった。リンがかつて実の父親から負わされた()のこと、そんな彼を見て自分の中に芽生える怒りもまた『愛』と呼べるのかも知れないこと、彼もまた自分のことを母として慕ってくれていること。  それに対して充足感を覚えながらも、ふとした瞬間に意識してしまうのだ。  この少年も、いつかは自分を置いて逝ってしまうのだろう……と。  ここ数年は、いわゆる育ち盛りの時期に入っているようだった。服も小まめに縫い直す必要が出てきたり、日々の食事も量が増えてきたり、少しずつ大きくなっていく身体に『あぁ、やはりこの子は男の子なのだ』と感慨深くなったり。  自分の手で命ある人の子を守ることができていることに、嬉しくもなる。愛おしく想う我が子(・・・)の成長は、リーリヤにとって何よりも心を躍らせるものだった。  けれど、それと同時に。  その早さが、時たまリーリヤの胸を締め付ける。  夕食を終え、入浴も済ませ、遊び疲れたリンは、粗末なベッドの上で無防備に眠っている。 「こんな姿を見せてくれるようになるまでにも、だいぶかかった……」  健やかな寝顔を見つめながら、それだけ信頼されるようになったのだろうかと頬を緩める。  しかし、考えてしまう。  もし、私が魔女でなければこの子に出会うことなどなかった。この子をこうして満ち足りた気持ちで見守ることなど、できなかった。  それでも、もし私が魔女でなければ、リンの成長に寂しさを感じずにいられたのではないか?  この子の育っていく姿を、何の曇りもなく喜べたのでは? 「…………、……っ、……」  きっと、これは自分とリンを繋いでくれた幸運の代償なのかも知れない。そう思おうとしても、リーリヤは自分の中にあるリンとの命の差を思ってしまうのが(つら)かった。 「……かあさま?」 「――、リン。起こしてしまったかしら」 「泣いてるの?」 「えっと、いいえ」  室内が暗いことを幸いに、リンを不安にさせまいと首を振る。するとリンは「そっか」と安心したように笑った。 「もし寂しくなったら言ってね? かあさまのこと、よしよししてあげる」  そう言って、また寝息を立て始めたリンを見て思った。  あとどのくらい、私はこの子といられるのだろう?
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