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森の奥のか細い小川。
世に恐れられている魔女リーリャの自宅は、その畔に建っていた。
見かけは、ともすれば少女と見まがうほどに若い女、しかし、恐るべき魔女であった。
魔女と恐れられる身ではあったが、実際にはその呪力を頼りに様々な村落の住民が訪れていたし、中にはこの地を訪れたことを知られたくない宮廷貴族からの密使が、半ば脅迫まがいのことをしながら自分の要求を通してくることもある。
当時、魔女という存在は禁忌とされていた。
理由は単純なもので、王政府が自らの力こそが世界を動かせるものであり、それ以外の超常の力など存在してはならないと公言してしまったからである。以来、魔女と名の付く者は悉く捕まり、そのあとどのような目に遭っているのかは、想像に難くない。
幸いにして、リーリヤはその中でも本当に力を持つ魔女であった。
標的にされた魔女たちは皆、近隣住民からの評判でそう思われただけで実際には魔女でもなんでもない、一般的な人々。故に、何もできない。何もできずにただ捕らえられることしかできなかった。
しかし、リーリヤは違う。
自分を捕らえたり殺したりするために来た者を道に迷わせたり、返り討ちにしたりすることもできたし、また彼女の持つ力は、王政府の方針とは裏腹にほとんどの人々から重宝されていた。
リーリヤの持つ力を、多くの人が頼っている。
だからこそ、標的にされても見逃される。
しかし、その毎日にも疲れを感じ始めてもいた。
もし力を持っていなかったら、自分自身にはどのような価値を見出してもらえるのだろう? ふとそんなことを思い始めていた。
きっかけは、わからない。
しかし、ふと不安になってしまうときがある。そんなときには、少し森を歩いてみるのもいいかも知れない。リーリヤは家を出て、近くの森を歩き始めた。しかし、束の間の気分転換も続けられない。
「ん……?」
近くの木陰に何かが見えた。もしかして、家の様子を探りに来たのか!? 慌てて戻ろうとしたリーリヤの足を引くように、今度は声が聞こえた。
あれ、ここどこ?
おとーさん、おとーさん?
……あぁ、そういうことか。リーリヤは合点がいくのを感じた。
しかし、困ったことになった――とも感じていた。
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