出会いは森の奥

3/7
前へ
/11ページ
次へ
 リーリヤが森の中で幼子を見つけて困り果てたのは、大きく2つの理由からだった。  第一に、自分は魔女である。実情として頼られる存在であったとしても、大きな世情で見れば忌むべき存在であり、そんな自分が関わった時点で彼の将来には暗い影を落としかねないことは、想像に難くなかった。  そんな思いをさせるとわかっていて、この子を拾うなどありえない。  もしかすると、この子によって私の存在が脅かされかねないことだってあるのだ――リーリヤはそう静かに呟いた。  いくら口先で調子のよいことを言っていても、いざとなれば平気で信頼を裏切りで返せるのが人間だということを、リーリヤはその身を以て何度も体験していた。  そういったものに対する報復も忘れないことで、また恐れられる。  人に歩み寄ろうとしていた時期でさえ、こうした視線に曝されていたのだ。  次に、そうかといってこの幼子をそのまま見捨てるわけにはいかないこと。  森の中には数多くの獣がいる。以前に比べて都市圏の拡大が進んでいるため人里がそう遠くないこの地域から少なくなっているとはいえ、まだ幼子をひとりきりで歩かせるにはまだまだ多い。  そんな獣の牙にかかれば、あの幼子は間違いなく死ぬだろう。  問題はそれからであり、その死体がいつしか虫を産み、その虫を媒介に何かしらの病が広がってしまう恐れがあったのだ。そうすると、近隣の住民が山ほど犠牲になってしまう。苦しみ、嘆き、時に周囲を呪いながら死んでいくに違いない。  それは、彼女にとって看過できる事態ではなかった。  それを考えるなら、リーリヤにとれた行動は1つだけだった。 「あら、みすぼらしい恰好をしてどうしたの、そこの坊や?」  まるで今気付いたかのように、涙目になって父親を探す少年に声をかける。森の奥で声をかけられるとは思っていなかったのだろう、あからさまに驚いた表情をしてから、「お父さんがいないんだ」と答えた。 「それなら、ここじゃ危ないからわたしの家でお父さんを待ちましょうか」  魔女の囁きに、少年は何の抵抗も示さずに「うん」と頷く。  わかっている、この少年の父は彼を迎えには来ない。それなのにこんな無責任なことを言っていいのか。その戸惑いも、少年の屈託のない笑顔で誤魔化しながら。  魔女は幼子の手を引く。  ひと時の関わりと思いながら。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加