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「あ、えぇ、ありがとう……」
その瞳に応えるべく、どうにか声を絞り出すリーリヤ。それでも、戸惑わずにはいられない。何故なら、目の前にいるのは紛れもなくかつての彼女にとって大切だった人の血を引く子で。
そんな幼子がこうして彼女の前に現れたことに、何かしら――そんなものがないということは痛いほどわかっているというのに――運命めいたものを信じずにはいられなかった。
「なにかこわいことあるなら、ぼくがいるから」
もちろん、幼子はそんなリーリヤの気持ちなど気付くはずもない。
ただ呆然としているリーリヤの為に思いつく限りの励ましの言葉を紡ぎ、「なかないで」と、それこそ自分が不安で泣いてしまいそうになりながら言葉をかけている。そんな姿を見て、リーリヤは奮い立つ。
この子を不安にさせてはいけない。
今は、不安にさせてはいけない。
今まで多くの捨て子がここに迷い着き、そして期待に応えられないリーリヤを置いて森を出ようとして、獣に襲われて命を落とした。
この子のそんな末路は、見たくない……!
それは、紛れもなくリーリヤ自身の中に芽生えた、久方ぶりの強い意志だった。
深い静寂に包まれた森の中。
リーリヤは幼子に視線を合わせるように屈み込み、その額に自分の額を押し当てる。
あぁ、人の温もりをこんなに心地よいと感じたのは、何十年ぶりだろう?
「?」
首を傾げて自分を見つめる幼子に、魔女は微笑む。
「坊や、私を守ってくれると言ったわね?」
「……、うん」
「その約束を、どうか命の限り果たして頂戴。その限り、私はあなたを不幸にはしないから」
古くから、魔女の微笑は人を惑わすと伝え聞く。
そして、魔女は森に迷い込んだ幼子を……
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