29(承前)

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「作戦開始はミサイル発射10秒前」  タツオはジャングルの上空から敵軍の陣容を観察した。目が釘づけになったのは、せいぜい拳銃弾をとめる程度の防御力しかないアーマーを身につけて前線に送られた空軍基地の守備隊の兵士たちだった。ほとんどはまだ二十代前半だろう。大人というには幼い顔が、赤外線の暗視カメラにぼんやりとオレンジ色に浮かんでいる。あの兵士たちをこれから倒すのだ。  こちらは最先端テクノロジーを使用した無人化部隊である。生身の肉体をもってこの戦場にいるのは、地元の生まれのジャン・ピエール・スクラポンだけだった。ここには圧倒的な非対称性が存在する。こちらが失うのは新型戦闘ロボットだけなのだ。血は流れず、長き悲しむ遺族もいない。  それでも全力で戦うしかなかった。ここは戦場で、この空港を落とせばウルルク王国の半分の広大な制空権が手にはいる。 「ミサイル発射まで20秒…19…18」  オモイが静かに報告した。タツオは3Dホログラフの身体のなかに奇妙な熱を感じていた。凍(こご)えるように冷たい熱が、腰から腹のあたりを荒れ狂っている。
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