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今、図書室には古野さんと僕しかいないことに気づく。
「ねぇ、古野さん。今日、先生は?」
「今日は出張でいないらしい」
静かな声音で告げる彼女は、読んでいる本から視線を外すことなく言い放つ。そっけないのが常である。
そうなんだ、と返し、受付カウンターの隣の席に座って、何の気なしにがらんとした図書室を見回す。
彼女が変わった人であるということを知っているのは恐らく、ごく限定的な人であろう。寡黙な彼女はその本性を周囲に見せないようにしている。なので、変人ではない。
しかし、四月からの数ヶ月間、同じ図書委員として彼女を見てきた僕からすれば、関心を引かれることが何度かあった。
図書委員の仕事の一つである書架整理の時のことである。
別の本棚を整理している彼女の、クスクスと笑う声が耳に入ってきた。どうしたのだろう、とそちらに行ってみると、彼女はハッとした表情をして、そさくさと別の本棚に移って行ってしまった。
彼女が整理していた本棚を見る。
そこには『震える牛』というタイトルの本の隣に『勝手に震えてろ』の本が収まっていた。思わず吹き出す。
僕は一しきりニヤニヤした後、本来収まっておくべき場所に『勝手に震えてろ』を戻しておいた。
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