2月14日

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 またある時は、本読みとして、あるまじきことをされたこともあった。  僕は専ら、推理小説を中心に読書をする。推理物ならホラーでも日常の物語でもジャンルを問わず読む。  同じクラスの図書委員ということで当番が一緒で、互いに本を読みながら受付に座っているのが常なのだが、こちらをチラッと見た彼女が小声で一言。 「犀川」  そう呟いた。言った彼女は何事もなかったように目線を戻す。  何だろう、と気になりながら読み進めていくと、物語のキーとなる人物が犀川だった。ネタバレはやめていただきたい。  彼女の本性は無邪気なのだと、一緒に図書委員をして半年もせずに僕は結論付けた。  物静かな彼女とは、数えられないほど会話をしたというわけでもないが、恐らく当たっていると思う。  バレンタインデーだというのに律儀に図書室に通って来る数名を横目に、古野さんの様子を伺うも不動。  これまでに季節行事があっても何もなかったことを考えるとさもありなん。  勇気を出して聞いてみる。 「バレンタインデーに図書室で自習なんて、よくやるよね」  聞けていない。これでは単なる独り言で、当然のごとく古野さんは何の反応も返してこない。  そして、その反応で勝手に全てを察した僕は、心を無にして図書委員の仕事に専心した。     
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