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「お前さぁ、藤枝となんかあったのかよ?」
帰り道、電車の座席に運良く座れた俺達は、赤くなりかけた空をぼんやりと見つめた。
線路が古いのか、車輪に問題があるのか、はたまた、運転手の技量か、電車は揺れに揺れている。
「中学んとき」
ぼそりと心の内を零そうと思ったのは、相手が灰田だからか、それとも、久しぶりに藤枝に話しかけられたからか。
「今日みたいに誘われて。俺、友だちいなかったから嬉しくってさ。のこのこ着いてったわけ」
「うん」
「カラオケだったんだけど、グループはできあがっていて、俺はボッチでさ。誘ってくれた藤枝すら一言も声かけてくれなかった」
「うん。で?」
「何が?」
「え? だから、つづきは?」
「ない」
「ないの?」
灰田が微妙な声を出す。
「それって逆恨みじゃね?」
そんだけじゃないけど、これ以上しゃべると俺の商品価値を自分で下げるみたいで言えない。
「だよな……」
「明日、藤枝に謝っとけよ。これから一年あんだぜ。表面だけでもとり繕っとかないときついだろ?」
「……だよな」
あそこだけ見たら俺が悪者だもんな。
「明日、朝一で謝るよ」
「ん。それがいい」
灰田は満足げに頷き、最近はまっている漫画について話し出した。
藤枝の中に俺が一ミリも存在しないことは仕方がないわけで、他人の想いを操ることなんて俺にはできないわけで、解決するしないの類いじゃないわけで、俺には差し迫った進路って問題や灰田って理解者もいるんだから、本当は藤枝を突っぱねる必要はそれこそナノ単位にだってないわけで……。
なのに、どうして心が潰されるように痛むのだろう?
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