樹氷の恋

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強引に抱き上げられた。 長い腕にからめとられ、 英太の体にぴったりと自分の体が張り付いて、 しっかりと背中に回された腕が 力強く私を離さない。 15年間で一度も 超えたことがない距離を超えて、今。 私と英太との距離は零センチメートル。 身長差がある私を殆ど持ち上げて抱きしめられて、 つま先が地面から離れてしまう。 それほどまでに強く抱きしめられて、 息ができないぐらい苦しくて。 でも、この苦しさは 今まで抱えてきた苦しみとは全然ちがう。 甘くて切なくて すっぱい気持ちが全細胞に広がって行く。 耳元で吐く彼の吐息と共に、 ヒュッと短く呼吸をする英太の次の言葉を待った。 「……俺はすごく会いたかった。 お前が一人で東京行くの、 本当はすごく不安だった。 行くなって言いたくて、 でも言えないままお前がいなくなって。 俺のいない場所で ゼロから友達作ってるのかなって想像しただけで、 なんかめちゃくちゃ落ち込んでた。 俺、お前のことが好きだったんだ。 ずっと前から好きだった。 雪………」 込み上げてくる思いが全身を震わせる。 ずっと言いたかった台詞を 全部英太に先を越されたけど、 そんなことどうでも良いぐらいに嬉しくて。 同じ気持ちでいてくれていたのだと知って。 もう、それだけで私の心は あっという間に白くてフワフワで温かなものに溢れた。 彼が私の顔を見て、また声を上げて笑い出した。 「なんて顔して泣いてんだよ? なんか、言えよ? 俺、すっげぇ勇気出して告白したんだからさ…」 笑いながら 目尻から涙がこぼれる英太の顔を見上げて、 深呼吸をした。 震える声しか今は出ないけれど。 精いっぱいの想いを込めて 私は背伸びする。 「あなたが、…好き」 背の低い私を迎えに来た彼の 眼鏡越しの瞳に 私の顔がはっきりと見えてきて、 ゆっくりと目を閉じた。 しんしんと降りしきる雪の夜。 私達が親友から恋人になれた 大切な甘い思い出……。 end
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