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積もる雪に縁どられた待合所のガラスの向こうは、
夜の帳が降りてきていた。
空港の中で一緒に温かいご飯を食べたばかりなのに、
私の体の中は吹雪き始めている。
今にも寒くて凍えそう。
彼は大事な友達だ。
一生失くしたくない友達だと思ってた。
だから…
……だからこうして、雪の季節に会いに来たの。
会いたくて。
冬になると、どうしても英太に会いたくなって。
東京で頑張って司法試験の勉強をしてるけど、
普段はストイックに勉強ばっかり夢中になって頑張れるけど。
でも、東京の冬は寒くて。
とても一人で春を待てそうになくて。
英太が隣にいれば、
あの頃の綺麗で可愛い思い出があれば
寒いはずの冬が温かくなるから。
…だから。
………それなのに。
私が知らないうちに、
英太には大事な人が出来たの?
そんなお洒落な指輪で自分を飾るような
そんな男じゃなかったでしょ?
心に浮かぶ聞きたい言葉が
降りしきる雪に隠されてしまう。
真実を知る勇気もない私は、
涙をこらえて英太の寝顔をおそるおそる振り向いた。
ふらり、とバランスを崩した彼の顔から眼鏡が滑り落ちて
カツンっと渇いた音が待合室の中に響いた。
その音で目覚めた英太が、
おぼつかない瞳でゆっくりと周囲を見渡すと
私を見つけて瞳を輝かせた。
「おはよう。雪」
ふんわりと微笑む英太は、
あの頃とちっとも変っていない。
背が伸びたし、顔も面長になったし、
腕も足も細くて長くてスマートで。
可愛いとカッコいいが混在する19歳の英太は
男としても魅力的過ぎて。
こんなに素敵になったんだもの。
誰も放って置かないでしょ?
そう、心の中で自分に言い聞かせた。
モタモタしてる自分が悪い。
英太は悪くない。
突き刺すような胸の痛みに
思わず泣きそうになった。
「どうした?」
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