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英太は眼鏡を拾ってかけ直すと、
立ち上がって私の前までやって来て
両肩に手を乗せた。
心配そうに顔を覗き込まれ、
そのあまりの近さに心臓がまたうるさくなる。
息ができない。
どうしよう。
「泣いてたの?
なになに?
なんか、深刻な悩みでもあるんなら、
俺聞くけど?」
英太は優しい。
基本、誰にでもすごく優しい。
だから、今までも色んな人から好かれている。
彼は人気者だった。
私だけの大事な友達という訳じゃなかった。
私だけの大事な……
締め付ける胸の痛みに耐えられず、
私は顔を反らして目を閉じた。
「雪?
相変わらず、そうやってすぐ
だんまりすんの変ってないよな」
英太は呆れたようにつぶやく。
「言ってくれなくちゃわからないんだけど。
お前が言えないんなら、俺が言っちゃうぞ?」
「……何を?」
聞かずにはいられなかった。
英太は察しが良い。
昔から、私がまだ言う前から
私の気持ちに気付いて
汲み取ってくれる場面が何度もあった。
そうやって甘えてばかりで、
私が英太の役に立った試しなんかない。
だから、英太には
私のような重たい女はきっと相応しくない。
そう思っている自分に気付いてしまう。
そんな私を見透かしたような目を向けて、
英太が微笑んだ。
「お前が突然帰ってきたくなった理由は、
樹氷が見たくなったからだろ?」
そんなの、肩透かしだ。
私は咄嗟にため息を吐く。
英太はそれを見逃さなかった。
「惜しい……。
じゃ、
樹氷を、俺と観たくなったとか?」
ドキリ!として、
私は思い切り顔を反らした。
頬が熱くなる。
バレてしまう。
「ビンゴ?!!」と、英太の声が上擦った。
そして、突然それは起きた。
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